「エスタ、エスタおいで」
右手を掲げて名を呼ぶと、ふわりとスピリットが姿を現した。
「……帰ってくるよね」
言葉を発する事のない友は、じっと自分を見つめるだけ。
「きっと大丈夫…だよね」
視線の落ちていく主に、元気を出せと額を軽くつつく。
「痛いよ。……手とか繋いで帰ってくるかな?」
ふとそうやって旅団に顔を出す彼らを思う。
ね、と目を向ければエスタは大きく頷いて見せた。
「あは、そうかな?もしかしたら、おぶられてるかもしれないよ?」
怪我だって沢山してるだろうし…。
また視線が下がるけれど、させぬようにと2度3度とまた頷く。
「何だ、どっちなの」
むっとして問いかけると、ピタリと動きを止めてじっと見つめてくる。
「うん、帰って来てくれるのが一番だもんね。うじうじしてる暇があったら、動かなきゃね」
エスタを腕にとまらせたまま、窓際へと移動する。
「僕はお迎え係だからね。…信じて待つよ。だから、帰ってきたらすぐに迎えてあげられるように、お前はこの辺りを巡回してて。何かわかったら、すぐに戻ってくるんだよ」
そう言って窓を開けると、エスタは一度頬ずりをしてからアクスヘイムの空へ羽ばたいて行った。
どうかどうか、いい知らせが早くに届きますように。
「さあ、落ち込んでばかりいられないぞ」
顔をパシパシと両手で叩き、落ち込もうとする気持ちを奮い立たせる。
お腹が空いているかもしれないから、得意ではないけどご飯もいっぱい作ろう。
もちろん、デザートに甘いものも忘れずに。
あったかいお風呂にゆっくり浸かって、疲れた体を癒してもらおう。
リラックス効果のある入浴剤を探しておくのもいいかもしれない。
お天気のいい日にお布団を干しておこう。
眠るのが苦手だって言うけれど、横になるだけでも回復力はずいぶん違ってくるんだから。
ふかふかのお布団に押し込んでふたりでごろごろしてもらって。
「やることいっぱいだ。帰ってくるまでに間に合うかな」
まずは買い出しからだな、本棚からケーキのレシピを取り出して材料をチェックする。ごはんのレシピは失敗のないよう難し過ぎないものを。
愛用の太刀を背負い、部屋を出る。
「別に何もしなくてもいい、…二人が楽しそうに居てくれるだけでいいんだ」
笑ってただいまって言ってくれるなら、笑っておかえりって言ってあげよう。
きっと彼らは大丈夫だから。
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